系統用蓄電池は何で収益を得るのか?3つの市場とリスクを整理

系統用蓄電池の収益は「3つの市場」から成る
系統用蓄電池投資の仕組み(別記事「系統用蓄電池投資の仕組みとは」参照)で触れたとおり、系統用蓄電池は発電設備ではなく電力系統に直接接続する調整力設備です。その収益は単一の仕組みではなく、電力システム改革の過程で整備されてきた複数の市場から得られる対価の組み合わせで構成されると一般に整理されています。本記事では、代表的な3つの市場(卸電力市場・需給調整市場・容量市場)それぞれの役割を、一般的な制度解説として取り上げます。
1. 卸電力市場(JEPX)での売買差益
仕組みの概要
日本卸電力取引所(JEPX)は、発電事業者と小売電気事業者等が電力を売買する市場です。電力価格は需給バランスに応じて30分単位で変動します。系統用蓄電池は、電力価格が相対的に安い時間帯(太陽光発電の供給が多い日中など)に充電し、価格が相対的に高い時間帯(夕方から夜間の需要ピーク時など)に放電・売電することで、その価格差を収益源とすることができます。
一般的な特徴
- 収益は電力市場価格の変動幅とタイミングに強く依存する
- 太陽光発電の導入拡大により、日中の市場価格が下落する傾向が指摘される一方、価格変動のパターンは季節・天候・燃料価格など複数の要因で変わり得る
- 市場価格を正確に予測することは本質的に困難であり、想定した価格差が常に得られるとは限らない
卸電力市場の価格がどのような要因で動くかは別記事「JEPXとは。卸電力市場の価格はどう動くか」で、価格差を収益源とする充放電戦略の仕組みと限界は「アービトラージとは」で詳しく整理しています。
2. 需給調整市場からの対価
仕組みの概要
需給調整市場は、電力の需要と供給を瞬時瞬時で一致させるために必要な「調整力」を、一般送配電事業者が調達するための市場です。経済産業省・資源エネルギー庁の資料では、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い出力変動が増える中、調整力の確保がシステム全体の安定運用に不可欠であると位置づけられています。系統用蓄電池は、この調整力の担い手の一つとして市場に参加し、応動実績等に応じた対価を得ることができます。
一般的な特徴
- 調整力の種類(応動時間の速さなど)によって求められる性能や価格形成の仕組みが異なる
- 市場自体が制度整備の途上にあり、商品区分や価格算定方法が見直される可能性がある
- 蓄電池の応答性能(充放電の切り替え速度等)が収益機会に影響する
商品区分の考え方や調整力の対価がどう決まるかは、別記事「需給調整市場とは」で掘り下げています。
3. 容量市場からの容量確保契約金額
仕組みの概要
容量市場は、将来の一定時点における電力供給力(kW価値)をあらかじめ確保しておくための仕組みです。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営し、発電設備等の「供給力としての価値」に対して対価が支払われる仕組みとして整備されています。系統用蓄電池も、一定の条件のもとでこの容量市場に参加し、供給力を提供する対価を得られる場合があります。
一般的な特徴
- 実際の稼働の有無にかかわらず「供給力を提供できる状態にあること」自体に対価が支払われる仕組みである点が、卸電力市場・需給調整市場とは性質が異なる
- 入札結果や約定価格は年度・オークションによって変動する
- 制度要件(供出可能な条件、ペナルティの有無等)を事前に確認する必要がある
オークションの仕組みやkW価値の考え方は別記事「容量市場とは何か」で解説しています。また、脱炭素電源への新規投資を対象とした「長期脱炭素電源オークション」という関連制度も整備されており、蓄電池の収益機会に関わる制度として動向が注目されています。
3つの市場の関係と留意点
| 市場 | 収益が生じる場面 | 主な変動要因 | |---|---|---| | 卸電力市場 | 充放電による価格差 | 市場価格の変動幅・タイミング | | 需給調整市場 | 調整力提供への対価 | 制度設計・応動性能・市場価格 | | 容量市場 | 供給力確保への対価 | オークション結果・年度ごとの制度 |
これら3つの市場は独立して存在するものではなく、実際の事業運営では複数の市場に同時に、あるいは時間帯ごとに使い分けて参加することが一般的とされています。ただし、どの市場からどの程度の収益が得られるかは、蓄電池の設備仕様、接続する系統の状況、そして各市場の制度・価格動向によって大きく異なります。特定の収益水準をあらかじめ保証するものではなく、複数の市場の特性とリスクを理解した上で、一次情報にもとづき事業計画を検討することが求められます。
収益構造を踏まえたリスクの理解
3つの市場はいずれも制度整備の途上にあり、価格形成の仕組みやルールが将来変更される可能性があります。また、卸電力市場での売買差益は、太陽光発電が出力制御(別記事「出力制御とは何か」参照)を受けるような需給ギャップの大きい時間帯に発生しやすい傾向がある一方、そうした需給状況自体が制度・天候によって変動するため、収益機会が安定的に継続する保証はありません。系統用蓄電池投資に共通するリスクの全体像は、別記事「再エネ投資のリスク一覧」で整理していますので、あわせてご確認ください。
実務チェックポイント
収益構造の理解を実際の案件検討に落とし込む際は、事業者に対して以下のような観点を確認することが望まれます。
- 収支シミュレーションの市場前提: 提示された試算が、3つの市場のうちどの市場からの収益をどのような前提(価格水準・約定率等)で見込んでいるか。前提の根拠となる一次情報が示されているか(確認手順は別記事「収支シミュレーションはどこを見るか」を参照)
- 運用体制: 市場取引・運用を担うアグリゲーター等の実績と、収益配分・手数料の契約条件(確認観点は別記事「蓄電池のO&M体制はどう確認するか」を参照)
- 容量市場の参加状況: 対象案件が容量市場に応札・約定しているか。約定している場合、リクワイアメント(求められる供出条件)未達時のペナルティ条件はどうか
- 需給調整市場への適合性: 設備の応動性能が、参加を想定する商品区分の要件を満たしているか
- 制度変更時の取り扱い: 市場ルールの変更で前提が崩れた場合の契約上の扱い(収益配分の見直し条項等)が定められているか
よくある質問
Q1. 3つの市場すべてから同時に収益を得られますか
同一の時間帯に複数の市場へ同じ容量を重複して供出することには制度上の制約があり、実際の運用では時間帯や状況に応じた使い分けが行われるのが一般的とされています。どの市場をどう組み合わせるかは運用者の戦略と設備仕様によって異なるため、対象案件の運用方針を事業者に確認する必要があります。
Q2. 収益は毎年安定して得られますか
いずれの市場も価格・約定結果が変動するため、収益が毎年一定の水準で継続することを前提にできる仕組みではありません。特定の収益水準を約束するものではない点を理解した上で、複数のシナリオで収支を検討することが望まれます。
Q3. 長期脱炭素電源オークションとは何ですか
脱炭素電源への新規投資を促すために整備された、長期間の容量収入を確保する制度で、蓄電池も対象電源に含まれ得るとされています。制度の概要は別記事「長期脱炭素電源オークションとは」で解説しています。
まとめ
系統用蓄電池の収益は、卸電力市場・需給調整市場・容量市場という性質の異なる3つの市場の組み合わせで構成されています。それぞれの市場は制度設計・価格形成の仕組みが異なり、いずれも将来にわたって同じ条件が続く保証はありません。事業として検討する際は、各市場の一般的な仕組みを理解し、電力広域的運営推進機関や資源エネルギー庁が公表する最新情報を確認しながら判断することが重要です。
出典・参考資料
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)公式サイト電力広域的運営推進機関(OCCTO) ・ 確認日: 2026-07-04
- 経済産業省 資源エネルギー庁「電力・ガス業界の動き」経済産業省 資源エネルギー庁 ・ 確認日: 2026-07-04
- 経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画」関連ページ経済産業省 資源エネルギー庁 ・ 確認日: 2026-07-04
- 日本卸電力取引所(JEPX)公式サイト日本卸電力取引所(JEPX) ・ 確認日: 2026-07-04
執筆者
Wealth HUB 編集部
運営: 株式会社ファンベスト
系統用蓄電池・不動産などの実事業を持つ株式会社ファンベストが運営する、資産運用・投資情報メディアの編集部です。制度・数値は一次情報を出典として明記し、特定の金融商品の売買を推奨しない編集方針で記事を制作しています。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・投資案件の売買を推奨し、または投資勧誘を行うものではありません。記事内で言及する制度・数値・利回り等は一般的な解説であり、将来の成果や収益を保証するものではありません。投資に関する最終的な判断は、読者ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。

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株式会社ファンベストは、系統用蓄電池をはじめとする再生可能エネルギーの実事業を運営しています。事業者としての知見をもとに、系統用蓄電池案件についての個別のご相談に応じます。
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